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【国連SDGs】戦略としての完全母乳栄養

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完全母乳栄養が乳児死亡率と感染リスクを下げる

高い乳児死亡率は 世界の中でアフリカ地域とアジア地域に集中して高い。そのため SDGsの目標達成のために国連は完全母乳栄養を戦略として提案している。完全母乳栄養の普及は 乳児死亡率の低下につながると期待されるからである。SDGsの戦略としての完全母乳栄養については 世界保健機関WHOは生後6か月までは母乳のみを与え その後適切な離乳食とともに 2歳またはそれ以後も母乳栄養を継続することと定義している。

国連のSDGs目標到達のための戦略

2015年で終了したミレニアム開発目標(MDGs)の最終評価では 栄養不良は世界全体としては改善したとされている。しかし 国や地域により大きな差があり サブサハラ・アフリカ地域及び南アジアでは改善が余り見られなかった。SDGsは目標に到達するためにの完全母乳栄養を重要な戦略の一つとして位置づけている。

「5歳未満」のこどもの生存につながる

完全母乳栄養を推奨する根拠は 完全母乳栄養を行うことで乳児の感染症や死亡率の低減につながるエビデンスがを根拠にしている。WHOは完全母乳栄養を適切に行うことで 82万の5歳未満の子供の死を回避することが可能であると試算している。そして 2025年における加盟国の完全母乳栄養率を50%まで普及させることを目指している。

粉ミルクは下痢のリスクを上げる

完全母乳栄養推進の背景にあるのは 多くの発展途上国が抱えている不衛生な生活環境である。例えば 安全な水へのアクセスがないところでは 人工栄養の場合 粉ミルクの哺乳瓶などを清潔に保つことができない。このため 子どもが細菌で汚染されたミルクを飲むことになり これが原因で下痢のリスクを高めてしまう。

下痢は子どもの死や栄養不良の重要なリスク要因である。衛生状態が悪い環境下では 完全母乳育を行うことで下痢疾患のリスクが4~14倍下がることが報告されている。下痢を予防することで子供の死亡率が大きく減少するのである。

完全母乳栄養が乳児死亡率は「5歳未満の栄養不良率」に敏感である。

記事
“社会経済開発と栄養” https://libreriahealth.com/nutritionsocioeconomicdev/
“「5歳未満のこども」の栄養不良と母親のリタラシー” https://libreriahealth.com/nutritionsocioeconomicdev/

Photo by Frederic Köberl on Unsplash

【根拠】WHO コード

完全母乳栄養の普及には「WHOコード」の批准と法制化が必要である。WHOコードとは「母乳代用品販売流通に関する国際規準」の別名であり「The Code:コード」とも呼ばれる。WHOコードは 母乳代用品販売流通に関して規制条件として10項目掲げている。この基準をよりどころに 母乳代用品のマーケッティングを規制することによって 完全母乳栄養を普及・推進している。

WHOコードは、1981年、第34 回世界保健総会において賛成多数で採択された。しかし、多くの国がWHOコードを批准しても、実際に推進していくための法制化をしている国は少ない。加盟国199か国の中で37か国のみがWHOが推奨する内容を法律に反映させているが多くの問題が存在する。例えば、カンボディアは、WHOコードを批准し法律も制定したが普及率は伸びなかった。普及が進まない理由として、法制整備が十分ではないことが指摘された。

【市場のグローバル化】発展途上国のベビーフード・粉ミルクのマーケティング

世界銀行によると、1960年から2013年までの間、経済的に豊かな国の出生率は大きく減少している。これに対して、発展途上国では出生率が大きく増加している。このような背景から、粉ミルクの市場は出生率の高い国で拡大している。母乳代替品の売り上げ額は、多くの低中所得国で毎年10%増加していると言われ、世界の母乳代替品の売り上げ高は、2013年4000億円(40億ドル)に到達したと報告されている。

完全母乳栄養が普及しない理由

日本や米国のような経済的に豊かな国では、完全母乳栄養の重要性については、専門家を除いて余り認識されていない。完全母乳栄養の普及には、WHOコードの批准と法制化が必要である。しかし、批准されても法制化が進んでいない国では普及・推進は難しい。

現在、粉ミルクの市場は出生率の高い国で拡大しており、完全母乳栄養の推進は難しくなっている。残念なことではあるが、私の周りのサイエンスコミュニティーの中にも、完全母乳栄養がSDGsの重要な戦略となっていることを知ってる人はすくない。

主な参考文献

1) UNICEF Breastfeeding and the Sustainable Development Goals 2016.
2) UN Millennium Development Goals 2015.
3) WHO Country Implementation of the International Code of Marketing of Breast-Milk Substitutes: Status Report 2011.

著者 吉澤和子 プロフィール プロフィール

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