著者:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa)プロフィール
完全母乳栄養で乳児死亡率低下を目指す:SDGsの戦略として
世界の中で、高い乳児死亡率は 、アフリカ地域とアジア地域に集中している。そのため、国連はSDGsの目標達成のための戦略として、完全母乳栄養の普及に努めている。完全母乳栄養は、科学的根拠に基づいて、乳児死亡率の低下につながるからである。完全母乳栄養の定義は、 世界保健機関(WHO)は生後6か月までは母乳のみを与え、その後適切な離乳食とともに、2歳、またはそれ以後も母乳栄養を継続することとしている。
完全母乳栄養の推奨根拠とWHOの目標:「5歳未満」のこどもの生存につなげる
WHOは、生後6ヶ月間は母乳のみで育てること(完全母乳栄養)が望ましいとされている。母乳には、こどもの免疫系の発達に必要な栄養素が含まれているため、完全母乳栄養を実施することで、乳児死亡率の低下が期待される。
実際、WHOは母乳栄養普及率を高めることで、5歳未満の子どもの死亡率を世界的に3分の1削減することを目標に掲げている。しかし、完全母乳栄養を実施することは容易ではなく、母親の栄養不良などで母乳が出にくい場合や母親が仕事に従事している場合など、様々な問題が挙げられている。
そのため、WHOは、6ヶ月以降も適切な栄養摂取が行えるよう、栄養補助食品の使用や、母乳育児支援など、様々な取り組みを推進している。総じて言えることは、完全母乳栄養は、乳幼児の成長と健康にとって非常に重要であるということである。完全母乳栄養を行うことは、乳児死亡率の低下につながり、5歳未満の子どもたち生存率を高めるため取り組むべき課題である。
完全母乳栄養は乳児死亡率低下の鍵
完全母乳栄養の推進には、多くの発展途上国が抱える不衛生な生活環境が背景にある。例えば、安全な水へのアクセスがない場所では、人工栄養の場合、粉ミルクの哺乳瓶などを清潔に保つことができず、子どもが細菌で汚染されたミルクを飲むことになり、下痢のリスクが高まる。
下痢は、子どもの死や栄養不良の主要なリスク要因であることが知られている。そして、衛生状態が悪い環境下では、完全母乳育を行うことで下痢疾患のリスクが4~14倍減ることが報告されている。このように、下痢を予防することで、子どもの死亡率が大幅に減少することが期待できる。完全母乳栄養は、乳児死亡率の低下にとって重要な役割を果たす。特に、「5歳未満の栄養不良率」と密接な関係がある。
WHOは、完全母乳栄養を適切に行うことで、82万人の5歳未満のこどもの死を回避することが可能であると試算している。また、WHOは2025年までには加盟国の完全母乳栄養率を50%まで普及させることを目標に掲げている。
完全母乳栄養は、乳児の感染症や死亡率の低減につながるエビデンスがあることから、国際的に推進されている。安全な水や清潔な環境が得られない状況下においても、母乳育児は子どもの健康を守るために重要な手段であり、その普及がますます求められている。
【根拠】WHO コード
完全母乳栄養の普及には「WHOコード」の批准と法制化が必要である。WHOコードとは「母乳代用品販売流通に関する国際規準」の別名であり「The Code:コード」とも呼ばれる。WHOコードは 母乳代用品販売流通に関して規制条件として10項目掲げている。この基準をよりどころに母乳代用品のマーケッティングを規制することによって 完全母乳栄養を普及・推進している。WHOコードは、1981年、第34 回世界保健総会において賛成多数で採択された。
しかし、多くの国がWHOコードを批准しても、実際に推進していくための法制化をしている国は少ない。加盟国199か国の中で37か国のみがWHOが推奨する内容を法律に反映させているが多くの問題が存在する。例えば、カンボディアは、WHOコードを批准し法律も制定したが普及率は伸びなかった。普及が進まない理由として、法制整備が十分ではないことが指摘された。
出生率の高い国での粉ミルク市場の拡大
1960年から2013年までの間、経済的に豊かな国の出生率は大きく減少している。これに対して、発展途上国では出生率が大きく増加している。このような背景から、粉ミルクの市場は出生率の高い国で拡大している。母乳代替品の売り上げ額は、多くの低中所得国で毎年10%増加し、世界の母乳代替品の売り上げ高は、2013年4000億円(40億ドル)に到達したことが報告されている。
世界銀行によると、1960年から2013年までの間、経済的に豊かな国では出生率が減少しているが、一方で発展途上国では出生率が増加している。このような背景から、母乳代替品市場は出生率の高い国で急速に拡大し、多くの低中所得国で、母乳代替品の売り上げ額が毎年10%以上増加し、2013年には4000億円(40億ドル)に達したことが報告されている。
このような傾向は、母乳栄養が健康的であるという知識の普及が不十分な地域では、健康被害や死亡率の上昇につながる可能性が高い。このため、WHOコードが法制化され、完全母乳栄養の推進が促進されなければならない。
1960年から2013年までの間、経済的に豊かな国の出生率は大きく減少している。これに対して、発展途上国では出生率が大きく増加している。このような背景から、粉ミルクの市場は出生率の高い国で拡大している。母乳代替品の売り上げ額は、多くの低中所得国で毎年10%増加し、世界の母乳代替品の売り上げ高は、2013年4000億円(40億ドル)に到達したことが報告された。
世界銀行によると、1960年から2013年までの間、経済的に豊かな国では出生率が減少しているが、一方で発展途上国では出生率が増加している。このような背景から、母乳代替品市場は出生率の高い国で急速に拡大している。また、多くの低中所得国で、母乳代替品の売り上げ額が毎年10%以上増加し、2013年には4000億円(40億ドル)に達したことが報告されている。
このような傾向は、母乳栄養が健康的であるという知識の普及が不十分な地域では、健康被害や死亡率の上昇につながる可能性が高い。このため、WHOコードが法制化され、完全母乳栄養の推進が促進されなければならない。
完全母乳栄養の普及には、法制化が必要である。
日本や米国のような経済的に豊かな国では下痢などの感染症の罹患のリスクは発展途上国に比較すると高くない。このため、完全母乳栄養の重要性については認知されていなお。完全母乳栄養の普及には、WHOコードの批准と法制化が必要である。
しかし、批准されても法制化されていない国では普及推進は難しい。近年、粉ミルクの市場は発展途上の出生率の高い国で拡大しており、完全母乳栄養の推進は難しくなっている。残念なことではあるが、私の周りのサイエンスコミュニティーの中にも、完全母乳栄養がSDGsの重要な戦略となっていることに気づいていない公衆衛生の専門家も多い。
コメント