アメリカ栄養学会での研究発表の仕方が進化している。この学会は毎年開催されているが、2022年はコロナ感染症が十分に収束していないこともあり、一部を除いて研究発表は多くがオンラインになった。この記事では進化するデジタルポスター発表の事例をとりあげ解説する。
オンライン学会の進化:新しいIT技術の導入とAIの活用
学会がオンラインで開催されると聞いたとき、最初はZoomでの発表を想像していた。しかし、多数の発表者がいる場合、その方法は無理があると感じていた。ところが、手続きを終えた今、学会の進化した開催方法に気が付いた。AI(人工知能)を含めた新しいIT技術が導入されており、従来の開催方法とのギャップを埋めるための努力がされていることが分かった。
ポスターによる研究発表はオンラインが主流になる
ご存じの読者もいると思うが、発表者はアブストラクトが審査に通ると学会主催者から発表が口頭またはポスターによるものかを知らされる。今回は自分の研究発表はポスター発表になったが、オンラインによる発表がどのようになるのか、具体的な情報はポスター提出期限ちかくまで分からなかった。COVID-19が人の集まりを消極的にしてきたこともあったが、感染爆発から2年で感染症に対応するためにIT技術が駆使されている。近年、多くの場面でのAIが導入されていることは驚くことでもないが、学会開催のシステム構築でも導入されているのが新しい動きである。したがって、発表者はこの新しい動きに対応しなければならない。
ePosterでのアメリカ栄養学会発表- AIを活用した音声入力とキャプションによる新しい発表スタイル
2022年アメリカ栄養学会での研究発表はポスターで行うというものであったが、従来とは異なるePoster(デジタル)で発表するというものである。手続きの仕方は、ePosterを完成させた後、クラウドの指定されたサイトでアカウントを作成し、そこにアップロード、更に説明を英語で音声入力するというものである。音声入力が終わると自動で文字起しをしてくれるが、この時内容の確認をする機会があるので、珍しい専門語もこのときに確認できる。これをキャプションという。音声入力とキャプションについては、AIが日本人の英語を聞き取れるのか疑問であったが特に問題は無かった。おそらくここで使用されるAIは、米国英語や英国英語だけでなくアクセントが強い英語などについてもディープラーニングしいているのではないかと思った。
デジタルポスターの効率的な発表方法の模索
デジタルポスターを使用した発表の方法は、長い間広く知られている。これまでのやり方は、発表者が主催者にポスターのPDFなどを提出し、指定された場所と日時にモニターの前に立って、自分のポスターについて来場者に説明するというものであった。しかし、この方法は効率的ではなく、参加者が多い場合、後ろにいる人はポスターを見ながら説明を聞くのが難しい。また、発表当日のタイミングが悪いとチャンスを逃すことがある。COVID-19のようなパンデミックがあると人が集まれないこともあるなど不都合がことがある。
紙媒体のポスターによる発表
紙媒体による発表は、主催者が場所を確保しなければならないことも含め効率はよくない。また、発表者は開催地に行かなければならないという不都合さもある。私個人としては紙媒体によるポスター発表が好きである。直接人とのインタラクションが持てるからである。しかし、2022年のアメリカ栄養学会のやり方は、従来のやり方の問題点を大きくクローズアップしている。
オンラインが主流になる国際学会の未来
このアメリカの学会の例を挙げたが、今後はオンラインの国際学会の開催が主流になっていくと思われる。ここ数年のCOVID-19の経験から、人が大勢集まることは望ましくないことがわかった。また、グローバル化が進むにつれて感染症パンデミックのリスクは増大することを再認識した。このような隔離の措置が取られる中で、IT技術はオンラインでの開催を可能にしたことを実感している。この傾向は今後ますます強まると考えられる。ただ、パンデミックを経験したことで、人と直接会うことがコミュニケーションの質に大きな違いをもたらすことにも気づいた。最近の国連総会でのリアルな参加者が出席する報道を聞くと、人と直接会うことがいかに大切か再認識できる。
アメリカ栄養学会、IT技術を活用した知的財産化を推進する計画
アメリカ栄養学会は、学会で発表したものについてIT技術を活用し知的財産化を推し進める計画を立てている。この動向は、研究発表者にとっても大きなメリットがあると考える。今後は、このような取り組みを進める学会に多くの研究者が集まり、従来の学会開催形式をとっている学会での参加者数が減少する可能性があるであろう。
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