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オンライン学会の進化:アメリカ栄養学会の事例から

https://unsplash.com/photos/nOvIa_x_tfo
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執筆:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.) ― 栄養疫学者/グローバル・ヘルス・ニュートリションスペシャリスト


※本記事は、パンデミック期(2022年前後)における国際学会のオンライン化を、実際の学会発表経験に基づいて記録したアーカイブ記事です。
現在のハイブリッド型学会や、ポスト・パンデミック期の変化については、別記事で改めて整理しています。

はじめに:パンデミックが変えた国際学会の姿

新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、国際学会の在り方を根本から変えた。対面での開催が当たり前であった学会は、短期間のうちにオンライン開催へと移行し、多くの研究者が新しい発表形式への対応を迫られた。

著者は、米国栄養学会(American Society for Nutrition)を含む複数の国際学会において、パンデミック期にオンライン形式での研究発表を経験した。本記事では、その中でもePoster(デジタルポスター)発表を中心に、当時の実務的な体験と、学会運営の変化について記録する。

オンライン学会への急速な移行

パンデミック初期、多くの研究者がオンライン学会と聞いて想像したのは、Zoomを用いた口頭発表であった。しかし、大規模国際学会では発表数が膨大であり、従来型のオンライン会議ツールだけでは対応が難しいことがすぐに明らかになった。

その結果、学会運営側は、ePosterプラットフォーム、オンデマンド配信、AIを活用した補助機能など、新しいIT技術を積極的に導入するようになった。これは単なる「代替手段」ではなく、学会の構造そのものを変える試みであった。

ePoster発表という新しい形式

2022年の米国栄養学会において、著者の研究発表は紙媒体ではなく、ePoster形式で行われた。完成したポスターは指定のクラウドプラットフォームにアップロードされ、発表内容の解説を英語音声で録音する方式が採用された。

音声入力後には、AIによる自動文字起こしが行われ、キャプション(字幕)が生成された。専門用語や固有名詞については修正の機会が与えられており、研究内容の正確性を担保する仕組みが整えられていた。

AI字幕と非ネイティブ研究者

日本人研究者としては、英語音声がどの程度正確に認識されるのか不安もあった。しかし実際には、大きな問題は生じなかった。AIは、米国英語だけでなく、アクセントのある英語にも比較的柔軟に対応しているように感じられた。

この経験から、AI技術は、非英語圏研究者にとって学会参加のハードルを下げる可能性を持つ一方で、発音や用語選択に対する一定の注意も引き続き必要であることが示唆された。

デジタルポスターの利点と限界

ePosterには、物理的な設営が不要であること、世界中からアクセスできること、発表内容が保存・再視聴できることなど、多くの利点がある。一方で、対面での偶発的な議論や、ポスター前での深い質疑応答が生まれにくいという課題も明確になった。

著者自身は、研究内容についてじっくり議論できる対面型ポスター発表の価値を高く評価している。しかし、パンデミックという非常事態の中で、学会が短期間でここまでの代替システムを構築した点は、特筆すべきである。

パンデミック後を見据えて

パンデミックを経て、国際学会は完全なオンラインから、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド型へと移行している。オンライン開催は「例外的措置」ではなく、今後の学会運営における恒常的な選択肢の一つとなった。

一方で、人と直接会い、議論することの重要性も再認識されている。最近の国連総会や国際会議が対面形式に回帰していることは、その象徴である。

まとめ:記録として残す意味

本記事は、パンデミック期における国際学会のオンライン化を、実務者の視点から記録したものである。これは一時的な出来事ではなく、今後の学会運営や研究発表の在り方を考える上での重要な参照点となる。

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