TOR(Terms of Reference)は、業務取扱要領と訳されることがありますが、つまり 国連(United Nations, UN)でのプロジェクトや仕事における大切なガイドラインです。なぜなら 依頼された仕事を遂行するためには、役割、目的、スケジュールを理解することが不可欠だからです。この記事では、国連の仕事に焦点を当て、TORの役割及び重要性について解説します。 The Terms of Reference (TOR), sometimes translated as operational guidelines, are essential documents in United Nations (UN) projects and assignments. This is because understanding the roles, objectives, and timelines outlined in a TOR is crucial for successfully carrying out any assigned work.
国連の業務取扱要領(TOR)とコンサルタント
そもそも 国連の仕事は、世界中で平和、発展、人権といった重要課題に取り組むものです。したがって これらの課題を円滑に進めるためには、TORは欠かせないツールとなります。実際に 別の記事で国連コンサルタントが「TORを読み解く技術:国際開発プロジェクトの設計に活きる現場からの考察」でも書きましたが、著者もWHOコンサルタントとして東ティモール保健省で栄養分野のキャパシティービルディングの技術移転を行った際も、TORに記載された目的に沿って業務を進めました。
国連の業務取扱要領(TOR)とは?役割は仕事を進めるためのガイドライン
UNのエキスパートとしての仕事を始める際、TORは不可欠です。これはミッションの詳細を示す文書で、役割や責任、目標を明確にします。ミッションの実施にあたって、TORに基づき、スケジュール通りに進捗を管理し、評価基準を満たすよう努力します。仕事を進めるにあたり、コミュニケーションと協力が鍵になることを知っていなければなりません。UNの理念に共感し、使命感を持ち、TORを活用して成功を追求します。
特定のプロジェクト、タスクフォース、コミッティなどの任務には、それぞれに対応するTORが作成されます。この文書にも、任務の範囲、目的、実施計画、責任、評価基準などが詳細に記載されており、UNの多様な活動を効果的に管理し、成功へ導くための重要なガイドラインとなっています。
TORの発行タイミングと作成ポイント
TOR(Terms of Reference)は、プロジェクトやタスクが開始される前に作成・発行されることが一般的な重要文書です。この文書は、具体的な仕事の範囲(スコープ)や達成すべき目標を明確に示し、仕事を受けたコンサルタント(専門家)が具体的には、何をいつまでに行うのか、どのような手順で進めるのかを詳細に記述してあり、役割の混乱や誤解を防ぐ役割も果たします。さらに、TORの存在によりプロジェクトの進行状況を計画と照らし合わせながら管理しやすくなり、途中で問題が生じた際にも軌道修正がしやすくなります。これにより、プロジェクトは予定通りのスケジュールで進み、関係者全員が成果の共有と評価を適切に行うことが可能となります。結果として、TORは期待される成果の達成を支える基盤となり、プロジェクト成功の鍵を握る不可欠なガイドとなります
国連プロジェクトでのTORの活用法
国連(UN)の仕事では、TOR(業務取扱要領)がさまざまな場面で活用されます。たとえば、新たに設立されたプロジェクトチームにはTORが発行され、メンバーの役割や責任が明確に示されます。また、政策立案や調査活動の際には、TORが研究の方向性や方法を定める重要な指針となります。さらに、プロジェクト進行中はTORを参照しながら進捗を評価し、必要に応じて計画の調整も行います。こうした活用により、円滑で効率的なプロジェクト運営が可能となっています。
TORの重要性:プロジェクト成功のカギとは?
TORの重要性は計り知れません。というのも、UNの仕事は国際的な規模で行われ、異なる文化や専門領域を持つ専門家や団体が協力します。そのためTORは、これらの多様な関係者が一つの目標に向かって協力し、効果的にコミュニケーションを取るための共通の枠組みを提供します。これにより、結果としてプロジェクトや活動が混乱せず、目標達成への成功確率が高まります。さらに目標に向かって協力し、効果的にコミュニケーションを取ることは、国際社会の課題に対処し、持続可能な発展を促進するために不可欠です。
TORの構成要素:記載項目11のポイント
一般的に言えば、TORにはだいたい以下の情報が含まれます。
- タイトルと識別情報: TORのタイトル、発行日、バージョン番号など、文書自体の識別情報が含まれます。
- 背景と目的: TORの文脈や任務の背後にある理由、主要な目標や目的が記載されます。
- スコープと範囲: 任務の範囲、対象となる活動、および関連する領域が定義されます。
- 責任と役割: 参加者やチームの責任、役割、および職務が記述されます。
- スケジュールと期限: 任務の進行スケジュール、マイルストーン、期限が示されます。
- 評価基準: 任務の成功を評価するための基準や指標が提供されます。
- コミュニケーションと報告: 参加者間のコミュニケーションプロトコルや報告方法が記載されます。
- 予算とリソース: 任務に必要な予算、人材、および物資に関する情報が提供されます。
- リスクと問題: 任務を達成するためのリスク、問題、および対策が明示されます。
- 承認と署名: TORの発行機関や関係者の承認や署名欄が含まれます。
- 付録: 参照資料や補足情報が付録として添付されることもあります。
TORは、プロジェクトや任務の進行をサポートし、参加者間の一致と透明性を確保するための重要なガイドラインです。ただしTORに含まれる具体的な項目はプロジェクトや任務によって異なる場合がありますが、それでもこれらは一般的に考慮すべき主要な構成要素です。加えてこのガイドラインの他に、著者はSDGsとアマルティア・センのケイパブル・アプローチを常に意識して計画をたてます。
プロジェクト策定には指標導入を意識する
TORのポイント11項目を示しましたが、ここでは、特に評価基準に関連する“指標”について少し触れておきます。個人のコンサルタント向けのTORには、指標の設定が明記されないことも多いですが、成果が求められる国際プロジェクトの提案書(プロポーザル)を作成する際には、質の高いデータに基づく現状分析と、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルに不可欠な適切な指標の設定が欠かせません。著者もこの点を常に意識しており、長期的にはプロジェクト評価に役立つと考えています。
ただし、指標の質によっては、短期的に成果に直結しない場合もあります。 疫学的な視点では、因果関係の評価に用いる指標について、その長期的な意味や解釈を十分に理解しておく必要があります。
さらに、提案書の効果を高めるには、現状分析に基づいて適切な指標を設定し、成果を明確に示すことが重要です。特に、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する指標を取り入れることで、国際的な評価基準との整合性が高まります。
これらの指標の意義を理解するには、疫学や統計学の知識があると効果的です。加えて、多変量解析の知識があれば、指標の意味をより的確に把握できます。
この点については、また別の機会に詳しくご紹介したいと思います。
TORを理解しないとどうなる?リスクと対策
TORを十分に理解しない場合、プロジェクトやミッションの方向性や目標が誤解され、役割と責任が混乱し、期限の遅延や目標の達成困難が生じ、コミュニケーションの障害が発生するなど、重大なリスクが生じる可能性があります。したがって、専門家はTORを正しく理解し、その内容を十分に把握することが不可欠であり、プロジェクトやミッションの成功に向けてスムーズな進行と協力を確保するために欠かせない要素となります。
【まとめ】TORの役割と国連プロジェクトでの活用法
国連(UN)の仕事は、世界の平和と発展に向けた重要な取り組みです。この取り組みを成功させるためには、適切な計画と指針が必要です。その中でも、ToR(Terms of Reference)は、プロジェクトや活動の成功に向けて不可欠な役割を果たします。ToRは、国連プロジェクトを成功させるための土台となる重要な文書です。私の経験でも、明確なToRがあることでチームが同じ方向を向き、成果を出すことができました。今後、国際的な協力や開発に関わる方々にとって、この記事が実践の一助となれば幸いです。
この記事は、Kazuko Yoshizawa(吉澤和子)Global Health & Nutrition Specialist(グローバル・ヘルス・ニュートリション スペシャリスト)が執筆。
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