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「アントロポセンの食」のあり方:持続可能なフードシステムに基づくヘルシーダイエット

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地球は新しい地質時代の食:「アントロポセンの食」

地球は新しい地質時代(人新生またはアントロポセンとも呼ばれている)に入ったといわれている。2019年1月、 地球のサスティナブルなフードシステムにあった人類の「食」のあり方を伝えるレポートが世界五大医学雑誌のひとつThe Lancet(ランセット)に掲載された。世界で大きなインパクトを与えているこのレポートは「アントロポセンの食」と題され、米国やEUの国々のみではなく地球ベルの食事のガイドラインとなるべく提案されたものである。

人口増加に追いつくための食糧生産エコシステムと増えるCO2排出量

地球の人口爆発や環境破壊が加速している。大きな原因はこれまで人間が行ってきた無秩序な開発活動に起因している。無秩序な人間の活動は地球温暖化などの気候変動を引き起こしてしまった。また、発展途上国でのワクチン接種などの普及が進み、子どもの栄養状態や死亡率が改善され、大きな人口増加につながった。これに見合うための食糧生産エコシステムが作られたことによりCO2排出量が増えつづけ、地球の持続可能性に脅威をあたえるようになってきた。
このような状況を背景にした新しい地質時代に、人は何を食べたらよいのか。その疑問に答えるために、「アントロポセンの食」が策定されたのである。現代の食から「アントロポセンの食」に移行することによって、地球の持続可能性が高まることが期待されているのである。

「アントロポセンの食」とEAT-Lancet委員会

「アントロポセンの食」は、2050 年 の世界の推定人口が 100 億人に達することや加速する気候変動など環境破壊に対処するたのフードシステムの在り方を示したものである。人類が直面する環境破壊には、現在の地球レベルの食料生産の形態が環境に大きな負荷をかけていることや、食事が慢性疾患数の増加させている、というエビデンスが蓄積されてきたことがあり、この問題に取り組むことが必至となった。そこで、EAT-Lancet 委員会が立ち上がった。委員会は 16 か国からの分野の異なる研究者37 人のメンバーで構成された。
内容は、プラネタリー・ヘルス・ダイエット (Planetary Health Diet)となっている。全体の食事の中で穀物、果物、野菜、ナッツ、そしてレギュームがより大きな割合を占めており、植物中心のダイエットを強調している。肉類と乳製品の割合は少ない。

「アントロポセンの食」とエビデンス

この提案されたダイエットは、高いレベルのエビデンスに基づいている。策定のプロセスは、食事と主に心疾患などの生活習慣病の死亡リスクとの間に因果関係が成り立つためのエビデンスに基づいている。動物性食品の割合は少ないのは、動物性食品に含まれる飽和脂肪酸が健康に与える悪い影響を考慮している。また、食肉生産におけるCO2の軽減に配慮している。

食肉生産効率とCO2

食肉生産の効率を測るのに飼料交換比率がある。増加した体重の量と動物が消費する飼料の量の比率のことである。 国連農業機関FAOの試算では、牛肉1キログラム生産するには約6キログラムの飼料が必要である。これは鶏肉や豚肉の場合では異なる。この問題については 国連が過去何十年も前から問題にしてきている。このトピックは50年以上も前からよく知られている。
食肉生産における効率性とCO2排出量も度々話題になってきた。2006年、国連のFAOが発表した研究レビューのなかで、畜産業が気候変動に大きく影響を与えていると警告している。今では 畜産業とCO2排出量はコンピューターでシミュレーションが正確に行えるようになってきた。

エビデンスに基づく「食による生活習慣病」の予防

国際機関や国が行う公衆衛生政策は 、エビデンスに基づいて策定されなければならない。例えば 、食事で病気を予防する政策を考える時、食事と病気(心疾患など)のリスクとのあいだには 因果関係が成り立つエビデンスが必要である。しかし、そう言った研究の実施には莫大な時間と費用がかかる。「アントロポセンの食」のあり方は、世界中の異なる専門性を持った学者が、世界で行われたレベルの高い研究から得られたエビデンスを検証し、導き出したものである。

総論賛成と各論反対

総論は賛成だが、自分が実行するという各論になると、抵抗を感じる人は少なくないかもしれない。しかし、人間が行ってきた壊滅的な開発や加速する人口増加を、そのまま放っておいては地球の生態系維持は難しい。食は習慣であり、変えることは難しい。病気になって、はじめて自分が食べているものに気づくことが多い。「アントロポセンの食」への移行は、政治、経済、農業、教育など、あらゆるレベルのステークホルダーを巻き込んでいかなければならない。

参考資料

  1. Lewis SL, Maslin MA (2015) Defining the Anthropocene. Nature 519, 171-180.
  2. Sterner T, Barbier EB, Bateman I, et al. (2019) Policy design for the Anthropocene. Nature Sustainability 2, 14-21.
  3. Tilman D, Clark M (2014) Global diets link environmental sustainability and human health. Nature 515, 518-522.
  4. Willett W, Rockström J, Loken B, et al. (2019) Food in the Anthropocene: the EAT-Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems. Lancet (London, England) 393, 447-492.
  5. Katie Pavid, What is the Anthropocene, and why does it matter? National History Museum https://www.nhm.ac.uk/discover/what-is-the-anthropocene.html
  6. Livestock’s Long Shadow, FAO, 2006. http://www.fao.org/3/a0701e/a0701e00.pdf

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