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アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチとSDGs評価【ハーバード大学博士が解説】

WHO東ティモール事務所(筆者撮影)
WHO東ティモール事務所(筆者撮影)。政策評価には現状を把握するためのデータ収集と継続的なモニタリングが不可欠である。

著者:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.)
ハーバード大学博士(Sc.D.)/栄養疫学者・グローバル・ヘルス・ニュートリション スペシャリスト
元ハーバード大学客員研究員(Visiting Scientist)/元WHOコンサルタント

要旨

SDGs(持続可能な開発目標)を評価するためには、まず課題を測定し、評価可能なデータを収集することが重要である。SDGsは、貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等など、世界が直面する課題に取り組むための国際的な枠組みである。しかし、測定されたデータをどのように解釈し、人々の生活改善につなげて考えるのかという段階では、別の視点も必要となる。本稿では、アマルティア・センの理論を手がかりに、SDGs評価における測定と解釈の関係について考察する。

Summary

Summary The Sustainable Development Goals (SDGs) provide a global framework for addressing poverty, hunger, health, education, gender equality, and other pressing challenges. Assessing progress toward these goals requires reliable measurement and high-quality data. Without measurement, problems cannot be identified, policies cannot be evaluated, and progress cannot be demonstrated. However, collecting data is only the first step. An equally important question is how these data should be interpreted in relation to people’s lives and well-being. Drawing on professional experience in international nutrition and development, this article examines the relationship between measurement, evaluation, and interpretation through the lens of Amartya Sen’s ideas.

アマルティア・センから考えるSDGs評価

SDGsを評価するためには、まず測ることが重要である。アマルティア・センの思想については、以前執筆した「SDGsとケイパビリティ・アプローチ:アマルティア・センの視点」でも解説した。センは福祉経済学の発展に大きく貢献した経済学者であり、その思想は人間開発指数(HDI)やSDGsの理念にも大きな影響を与えている。

しかし私は最近、センの理論を読み返しながら、別の問いを持つようになった。

それは、SDGsはどのように評価されているのだろうか、という問いである。そして、その評価はどのようなデータに基づいて行われているのだろうか。

SDGsを語るとき、多くの人は目標そのものに注目する。しかし、国際機関や各国政府にとって重要なのは、目標を掲げることだけではない。実際に改善が起きているのかを確認し、評価することである。

そのためには、まず測定しなければならない。

SDGsはどのように評価されるのか

SDGsは17の目標と169のターゲットから構成されている。貧困、飢餓、健康、教育、ジェンダー平等、気候変動など幅広い課題を対象としている。しかし、これらの目標は理念だけで評価されるのではなく、最終的には数値指標によって進捗が評価される仕組みになっている。

例えば、貧困率、発育阻害率(stunting)、低体重率、学校就学率、温室効果ガス排出量などである。

これらの指標は国際比較を可能にし、政策の成果を客観的に評価するために不可欠である。もし数値がなければ、どの国で改善が進み、どこに課題が残されているのかを把握することは難しい。

私はWHOや国際栄養分野の仕事を通じて、改善を数値で示すことの重要性を経験してきた。

まず測ることが重要である

私は国際栄養分野で仕事をする中で、まず測ることの重要性を学んだ。栄養不良の子どもはどこにいるのか。どの地域で発育阻害が多いのか。その状況は改善しているのか。こうした問いに答えるためには、データが必要である。データがなければ問題は見えない。問題が見えなければ政策を立案することもできないし、改善を評価することもできない。

私は過去にスーダンで、連邦保健省とともに栄養情報システムの構築を提案した経験がある。栄養不良の状況を把握し、どの地域で問題が深刻なのかを明らかにするためには、継続的なデータ収集が不可欠であった。データがなければ、問題の規模も優先順位も見えてこない。

また、東ティモールでは保健省とともに栄養政策のプロジェクト計画策定に関わった。政策目標を設定する際には、現状を示すデータと、その後の変化を追跡するための指標が必要である。目標を掲げるだけでは政策の成果を説明することはできない。どの程度改善したのかを示すためには、測定可能な指標と継続的な評価が求められる。

これらの経験を通じて私は、政策立案と評価の出発点は「測ること」にあると学んだ。測定されて初めて課題は可視化され、可視化されて初めて改善への議論が可能になるのである。

データがあるだけでは十分ではない

しかし、データが存在するだけでは十分ではない。そのデータが政策評価に利用できる品質を備えているかどうかを検討する必要がある。調査方法は適切か。継続的に収集されているか。国際比較が可能か。政策評価に活用できるか。こうした条件が満たされて初めて、データは政策立案や評価のための基盤となる。

また、十分なデータが存在しない場合には、まずそのデータを収集する仕組みを整備することが必要となる。測定できない課題は評価できない。評価できない課題は改善することも難しい。

この考え方は、保健や栄養だけでなく、教育、貧困、環境など、SDGsのあらゆる分野に共通している。

アマルティア・センのケイパビリティ・アプローチが示す視点

その上で、アマルティア・センの理論は重要な意味を持つ。

私はまず測ることが重要であると考えている。データがなければ問題は見えず、評価もできないからである。しかし、測定されたデータをどのように解釈するのかという段階になると、別の問いが生まれる。例えば、栄養指標が改善したとして、その改善は本当に人々の生活の改善を意味しているのだろうか。栄養不良は減少しているのだろうか。子どもの生存率は向上しているのだろうか。人々は貧困から解放されているのだろうか。

こうした問いに答えるためには、まず測定できるデータが必要である。そして、そのデータをどのように解釈するのかという段階で、センの理論は重要な示唆を与えてくれる。センは貧困や飢餓の研究を通じて、経済成長や所得の増加だけでは捉えきれない人々の生活の側面に光を当てた。これは測定を否定する考え方ではない。むしろ、測定されたデータをどのように読み解き、人々の福祉や生活の実態を理解するかという視点を提供しているのである。

SDGs評価における測定と解釈

SDGsの評価において最も重要なことの一つは、まず測定することである。問題を測定しなければ、改善も評価もできない。私は国際栄養分野で仕事をする中で、測定の重要性を繰り返し実感してきた。栄養不良、貧困、健康格差などの課題は、データによって初めて可視化される。しかし、測定された数値は出発点にすぎない。

データが示す改善は、本当に人々の生活の改善につながっているのだろうか。栄養不良は減少しているのだろうか。子どもの生存率は向上しているのだろうか。人々は貧困から解放されているのだろうか。

こうした問いに向き合うとき、私は再びアマルティア・センの思想に立ち返る。測定によって課題を可視化し、その結果をどのように解釈するのかを考える。その両方があって初めて、SDGs評価は意味を持つのである。

まとめ

SDGsの議論では、目標や理念が注目されることが多い。しかし、政策を改善するためには、まず測定し、評価できるデータを整備することが不可欠である。

私はWHOや国際栄養分野の仕事を通じて、その重要性を繰り返し実感してきた。

その一方で、データは目的ではなく出発点でもある。得られたデータをどのように解釈し、人々の生活改善や福祉の向上という観点から理解するのかという課題が残されている。

アマルティア・センの理論は、その問いに答えるための一つの視点を提供している。SDGsの評価においても、測定と解釈の両方を大切にすることが、より良い政策と社会の実現につながるのではないだろうか。


著者:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.)
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