Since May 2020

アマルティア・セン(Amartya Sen)のケイパビリティ・アプローチとSDGs

https://libreriahealth.com/wp-content/uploads/2021/06/unjay-markiewicz-gzuyUXb7R2Q-unsplash.jpg
Photo by Unjay Markiewicz on Unsplash

著者:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa)

はじめに

多くの日本人、特に若い世代の多くは、アマルティア・セン(Amartya Sen)が誰であるかを知らないかもしれません。しかし、開発の分野に関わる人たちにとって、彼は記憶に残る学者の名前です。アマルティア・センの経済学は、貧困と福祉に関する重要な理論を提供しています。この記事では、この学者が誰であるか、そして彼の研究がSDGs(持続可能な開発目標)の構築にどのように貢献しているかを解説します。

アマルティア・センの経済学

センは、現代の世界で最も尊敬され、影響力のある経済学者の一人です。彼は1933年にイギリス領インドで生まれ、その後世界中で経済学と哲学の分野で圧倒的な業績を築き上げました。センは、1998年にノーベル経済学賞を受賞し、その受賞理由は「福祉経済学と社会選択理論に対する貢献、そして貧困と飢餓に関する研究」に由来しています。特に彼の著書『貧困と飢餓』は、飢餓が単に食料不足ではなく、経済システムや不平等に起因することを明らかにしました。

アマルティア・センの業績

センの業績と研究は、世界中の社会や国際政策に深い影響を与えました。彼の最も重要な貢献の一つは、「ケイパビリティ・アプローチ」として知られる概念を提唱したことです。この概念は国際的な開発政策や社会正義に大きな影響を与え、SDGsの実現に向けた貴重な基盤となっており、その影響力は計り知れません。

彼の研究は、国際機関や政府によって広く受け入れらました。中でも「人間開発指数(HDI)」の提案は、国や地域の発展を総合的に評価するための重要なツールとして採用され、経済成長だけでなく、教育、健康、生活水準などを評価する指標として使用されています。

また、センは、ジェンダー平等に関する研究にも貢献し、性差による不平等が健康や生存率に及ぼす影響を示しました。これらの研究をもとに、国際社会はジェンダー平等に向けた政策を推進しました。センの業績は、持続可能な開発と社会的正義の推進に大きな影響を与え、彼のアイデアは今日でも世界中で評価されています。

ケイパビリティ・アプローチ

ケイパビリティ・アプローチは、人々の生活の質や幸福を評価する際に、単なる所得だけでなく、彼らが持つ「能力」や「自由」を重要視するコンセプトです。社会政策や開発政策の立案において、単なる所得の増加だけでなく、個々の能力や自由の向上を促進することを重要視します。それにより、人々が教育を受ける機会や健康を維持する機会、社会的・経済的に活躍する機会を得られるようになり、生活の質や幸福度を向上させることが可能となります。結果として、社会全体の包摂性が高まり、持続可能な発展の実現に貢献します。

以下のポイントが重要です:

能力の視点:人々が持つ能力(スキル、知識、健康、自由など)を評価の中心に据えます。所得だけではなく、これらの能力が人々の生活の質を向上させるための基盤となります。

自由の重要性:個人が自分の人生を選択し、自己実現するための自由が重要です。社会的な制約や不平等がこの自由を制限する場合、人々は本来の能力を発揮できない可能性があります。

例を挙げると、以下のような状況が考えられます。

健康:健康は個人の能力の一部であり、良好な健康状態は人々が能力を最大限に発揮し、充実した生活を送るための基盤です。しかし、疾患、栄養不良、アクセス不足などの健康に関する制約がある場合、人々は本来の能力を発揮できない可能性が高まります。

人間開発指数(Human Development Index: HDI)

人間開発指数(HDI)は多くの国際機関や国々で使用されています。、アマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ(能力アプローチ)」に基づいて開発されました。彼の研究は、人間の発展を経済的な指標だけでなく、人々がどのように豊かで自由な生活を送れるかに焦点を当てています。センのアプローチは、国際連合開発計画(UNDP)が1990年にHDIを策定する際に大きな影響を与えました。HDIは、各国の発展状況をより包括的に評価するために、平均寿命、教育水準、所得といった要素を組み合わせています。国際連合は、HDIを開発政策の評価や比較に使用し、世界中の国々の発展状況を監視するためにこの指標を採用しています。また、個々の国々や地域でも、HDIは社会政策の立案や改善、持続可能な開発計画の策定に利用されています。

国際連合(UN)を含む多くの国際機関は、HDIを開発政策の評価や比較に使用し、世界中の国々の発展状況を監視するためにこの指標を採用しています。また、個々の国々や地域でも、HDIは社会政策の立案や改善、持続可能な開発計画の策定に利用されています。HDIは、経済成長だけでなく、人間の生活の質や幸福度を考慮に入れることで、より包括的な評価を提供し、持続可能な発展を推進します。

ジェンダー平等

彼の研究は、性別による不平等が社会や経済に及ぼす影響を詳細に分析し、その結果を国際社会に提供しました。特に、センの研究は性差が健康、教育、生存率、経済的な機会など多くの側面にどのように影響を与えるかを示しました。彼は性差による不平等が個人や社会全体の発展に制約を与え、社会正義と持続可能な開発に対する障壁となることを強調しました。センの研究は国際社会にジェンダー平等に向けた重要な議論を促進し、ジェンダーに関連する政策やプログラムの改善に貢献しました。

まとめ

センは、持続可能な開発目標(SDGs)の策定において重要なコンセプトを提供した重要な貢献者の一人です。センの提唱した「ケイパビリティ・アプローチ」は、人間の能力や自由を評価し、単なる経済成長だけでなく、人間の幸福と発展を中心に据えた開発戦略を支持しました。彼の研究は、貧困、不平等、ジェンダー平等などの分野で新しい視点とアプローチを提供し、SDGsの達成に向けた国際的な取り組みに大きく貢献してきたのです。

コメント