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【貧困の経済学】Amartya Sen アマルティア・セン

Amartya Sen researched on developed economics which includes capable approach, hunger, and poverty.
Photo by Emily Karakis on Unsplash

【貧困の経済学】Amartya Sen アマルティア・セン

公開日: 2021年6月6日

最終更新日: 2025年3月26日

はじめに

2021年6月に発行された“The Harvard Gazette”の記事には、1998年ノーベル経済学賞受賞者アマルティア・セン(Amarty Sen)の最近の動向についての内容があり、彼が70年近くにも亘る充実した研究生活を続けていることが分った。そのなかで、彼の新しい著書「Home in the World: A Memoir」が、同年7月に英国と米国で出版されたとの内容が紹介されていた。

ハーバード大学のキャンパス内で情報を共有するメディアの一つがHarvard Gazetteであり、このメディアは定期的に回覧され、キャンパスで起きている出来事や興味深い記事が豊富に掲載されている。この記事ではセンの研究との出会いを紹介する。センの研究への関心は、1988年にコーネル大学で履修した課題から強く影響を受けた。

アマルティア・センの研究との出会いとその影響

私がセンの論文に初めて出会ったのは、1980年代後半である。当時、私はコーネル大学の国際開発学部修士課程に在籍しており、受講していた国際農業開発の授業の課題でセンの論文を読むことになった。どのジャーナルに掲載されていたかは正確には覚えていないが、「ベンガルの飢餓」についての内容の論文をいくつか読んだ。センは、飢餓が自然災害によって引き起こされるのではなく、人間の活動が原因であることを証明した。当時、飢餓は自然災害によって引き起こされるものだと考えられ、多くの学者がこの見解を信じていた。それを覆したセンの手法に、私は深い感銘を受けた。

国連の仕事を経験して開発研究に重要さを再認識したこと

貧困と飢餓問題に興味を持ち始めたのは、10代の頃だったと思う。最初に衝撃を受けたのは、サイエンスかタイムズの記事を読んだ時であったと記憶している。その後、長いあいだ開発問題に関心を抱いていましたが、特にアジアやアフリカの貧困や飢餓問題に対する興味は、アメリカ留学時の経験をきっかけに深まりました。ハーバード大学で博士号を取得し、アジアやアフリカでフィールド経験を積んだ後、23年後に母校のボストンにあるハーバード大学に客員研究員として戻った際、この分野の研究が学術的に支援される環境に再び感銘を受けた。

福祉経済学の理論と測定:経済と哲学の融合

センの研究は、経済と哲学の融合が特徴的である。通常、多くの経済学者は世界で起こっている出来事の説明と予測に焦点を当てることが一般的であるが、彼は異なるアプローチを取り、経済学と哲学を組み合わせて、現実がどのようにあるべきかに注意を向けたことだ。彼のこの独自のアプローチは、福祉経済学の理論と福祉の測定に関する研究において、1998年にノーベル経済学賞を受賞することとなった。初期の研究は、特に植民地時代のインド社会における不公平に焦点を当てたものが多く含まれている。

ケイパビリティ・アプローチとは?

飢餓に関する研究と人々の幸福を正確に評価する研究において、経済学者は収入だけでなく、情報を考慮する必要があるという新しい見解を示した。これにより、開発経済学と福祉経済学の考え方が変わった。この新しい見解は「ケイパビリティ・アプローチ」(Capability Approach)として知られている。これは、政策が個人の人生の機会にどのように影響するかを研究するものである。

開発とジェンダー研究

センはジェンダー研究にも取り組んでおり、インド社会における男女差が健康にも影響を与えることを示した。特に、子どもの生存率や栄養不良率においてジェンダーが重要な要因であることを明らかにした。これらの研究成果を基に、国連でジェンダー問題を提起した。1983年に発表された『インドの女性:福祉と生存』、1995年に発表された『ジェンダー不平等:理論と測定』は、センのジェンダー研究の重要な成果である。センの研究は、貧困問題の解決や開発経済学に多大な影響を与え、社会問題へのアプローチに新たな視点を提供した。

人間開発指数(Human Development Index, HDI)の概要

アマルティア・センの研究は、国連の政策策定に大きな影響を与えてきた。人間の能力と自由の観点から開発を測定する人間開発指数(Human Development Index:HDI)は、国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)によって導入された。現在では、多くの国際機関がPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルの評価指標として活用している。その理由は、HDIが信頼性の高い指標であるためである。

HDIは経済成長に加えて、人間の生活の質や幸福度を評価するための指標である。HDIは、アマルティア・センとマハブーブ・ウル・ハクによって提案された。彼らは1980年代初頭から開発経済学の分野で共同研究を行い、人間開発の視点を経済成長や所得だけでなく、人間の能力や自由、社会的な機会にも注目する必要性を提唱した。HDIは、国の平均寿命、教育水準、一人当たりの所得などを指標として用い、国や地域の人間の発展状況を比較するための基準となっている。

HDIの開発により、経済成長だけでなく、教育、健康、生活水準などの要素が含まれた包括的な指標が提供されるようになった。これにより、国や地域の人間の発展を総合的に評価し、政策立案や開発の促進に役立てることが可能となった。

センの貧困研究の背景:植民地支配下のインド社会

センは、自分が育ったインドが植民地支配下にあったという経験を持っている。この経験が彼の研究テーマである「貧困の経済学」に大きな影響を与えた。インドでは長い間、社会的・経済的な不平等が深刻な問題として存在しており、センはこの不平等が人々の生活に、どのような原因と影響を及ぼすのかを特定し、理解することの重要性を強く感じた。

貧困の経済学研究は社会的正義や人間の発展を促進する

センの研究は、貧困問題に新しいアプローチを提供した。彼は自身の母国での経験から、不平等や社会的な制約が人々の生活にどのような影響を与えるのかを明らかにしている。センの研究は、貧困の経済学を通じて、社会的正義や人間の発展を促進するための取り組みを支えている。彼は稀有な学者であり、彼の研究は今でも貧困問題に取り組む人々にとって重要な指針となっている。

センの研究は、貧困、飢餓、不平等といった社会的問題に対する洞察を提供した。さらに彼のアプローチは、理論にとどまらず、実際の政策にも影響を与えた。。センはその後、国際的に活躍し、多くの国でその理念を実践するための政策提言を行っている。

センのオフィスアワー設置の意味

米国の大学の教員は、担当する教科について学生からの質問を受け付けたり議論したりするために、オフィスアワーを設けるのが一般的である。一方、日本の大学では、このシステムを導入している教員は少ない。理系の大学の助教が時間外に学生を指導することは珍しくないが、制度としてのオフィスアワーはあまり普及していない。

センが所属するハーバード大学のホームページには、彼のオフィスアワーが明記されており、これからも彼の教育方法が単なる学問的な議論にとどまらず、学生が抱える社会的な問題にも深く関わろうとしている様子がうかがえる。

著者: 吉澤和子

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