Since May 2020

日本のジェンダー・ギャップ順位「116位」をどう読むか―WEFの指標とデータ出所を検証

執筆:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.ハーバード大学博士)― 栄養疫学者、グローバル・ヘルス・ニュートリション・スペシャリスト、元 Harvard T.H. Chan School of Public Health 客員サイエンティスト、元 WHO コンサルタント

世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が2022年7月に公表した『Global Gender Gap Report 2022』によると、日本のジェンダー・ギャップ指数は146か国中116位だった。同報告書では、米国27位、韓国99位、中国102位、ミャンマー106位、アフガニスタン146位とされている。

この数字だけを見ると、日本は女性にとって非常に暮らしにくい国であるかのような印象を受ける。しかし、国際ランキングを評価するときには、何を測った数字なのか、対象国はいくつか、データはいつのものか、そして、どの指標が採用されているかを確認する必要がある。

海外生活を経験した日本人女性として

私は日本に生まれ、研究と仕事のため、米国を中心に海外で合計約18年間暮らした経験がある。ハーバード大学で栄養疫学を学び、その後も大学や国際保健の分野で研究と仕事に携わってきた。

研究環境については、豊富な研究資金、多様な分野の研究者との交流、新しい発想を受け入れる文化などを含め、米国、特にハーバード大学には世界を牽引する強さがあると感じている。

一方、人が健康を維持し、長く生きるための生活環境については、日本が最も優れた国の一つであり、私自身の経験からは、日本での安心と安全を強く感じている。

日本には国民皆保険制度があり、年齢や所得に応じた負担で必要な医療を受けられる。義務教育が広く保障され、衛生環境や治安も良い。さらに、高齢になってからも、医療、年金、介護などの制度によって生活を支えられる可能性が比較的高い。

もちろん、日本では政治家、企業の管理職、意思決定を担う立場に女性が少なく、改善すべき男女格差が残っている。しかし、女性が高齢になっても一人で暮らし、必要な医療を負担可能な金額で受け、社会の一員として生活を続けられるかという観点も、女性の自立を評価するためには欠かせない。

海外での研究と生活を経験したからこそ、私は日本社会の問題点だけでなく、日本の医療、教育、社会保障、治安などが、女性の健康と長寿をどのように支えているかについても考えるようになった。

日本のジェンダー・ギャップ順位を見たとき、私が日本人女性として実際に受けてきた教育や、現在利用できる医療・社会保障の存在が、この順位にどの程度反映されているのかという疑問を持った。

「116位」の分母と最新版

日本は国連加盟国193か国中116位だったのではなく、WEFが対象とした146か国中116位だった。現時点で公表されている最新版は2025年版で、日本は148か国中118位、総合スコアは66.6%だった。2022年は116位、スコア65.0%であるため、順位は下がったものの、スコア自体はわずかに改善している。

順位は、他国の状況や対象国数にも左右される。そのため、日本のスコアが改善しても、他国の改善がそれを上回れば順位は上がらない。順位だけでなく、対象国数とスコアの変化も併せて見る必要がある。

この指数が測っているもの

ジェンダー・ギャップ指数は、女性の生活水準そのものを評価したものではない。次の4分野、14指標について、女性が男性にどの程度近づいているかを測定している。

  1. 経済参加と機会
  2. 教育達成度
  3. 健康と生存
  4. 政治参加

経済分野では、労働参加率、推定所得、管理職や専門職の男女比などを評価する。政治分野では、女性国会議員、女性閣僚、過去50年間に女性が国家元首を務めた年数などを評価する。

さらに、指数を構成する指標によって、時間的変化に対する感度が異なることにも注意が必要である。閣僚や国会議員の女性割合など、ある時点の状況を比較する横断的な指標は、選挙や人事によって比較的短期間に変化する。一方、教育、健康、労働慣行などは変化が緩やかであり、過去50年間の女性国家元首の在任年数は、長期的な歴史の蓄積を反映する。したがって、同じ総合指数の中に、現在の変化を捉えやすい指標と、長期的変化を反映する指標が混在しており、それぞれの変化に対する感度は同じではない。

日本では、教育と健康における男女差は小さい。一方、国会議員、閣僚、企業管理職などに占める女性の割合が低いため、特に政治と経済の評価が総合順位を下げている。これらは日本が改善すべき現実的な問題である。

しかし、この順位を「女性の暮らしやすさ」や「女性が自立して生きられる社会かどうか」の総合順位と解釈することはできない。

データはどこから集められているのか

WEFがすべての国で独自調査を行っているわけではない。14指標の多くには、国際労働機関(ILO)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、世界保健機関(WHO)、国連開発計画(UNDP)、列国議会同盟(IPU)などの統計が使用されている。

一方、「同じ仕事に対する男女の賃金平等」には、WEFが企業経営者などを対象に行う意識調査も使用される。したがって、すべての指標が行政記録に基づく客観的な数値というわけではない。

また、2022年版に掲載された数値が、すべて2022年に測定されたものでもない。国を指数に含めるには、14指標中少なくとも12指標のデータが必要であり、原則として過去10年以内に公表された利用可能な最新データが使用される。そのため、指標によってデータの調査年が異なる可能性がある。

日本女性の自立を支える制度は評価されているか

日本で暮らす立場から考えると、女性が高齢になっても自立して生活するためには、政治や企業における代表性だけでなく、医療、教育、年金、介護などの社会基盤も重要だと考えている。

例えば、日本では国民皆保険制度があり、高齢者の医療費の窓口負担は年齢と所得に応じて抑えられている。75歳以上の後期高齢者医療制度では、原則1割負担で、一定以上の所得がある場合は2割、現役並みの所得がある場合は3割となる。

これは女性だけを対象にした制度ではない。しかし、女性は男性より平均寿命が長い。医療保険、年金、介護保険などの制度は、結果として高齢女性が生活を継続するための重要な基盤となっている。

家族や配偶者の支払い能力に全面的に依存せず、負担可能な金額で医療を受けられることは、女性の実質的な自立を考えるうえで重要である。

教育についても、日本では男女とも義務教育への就学がほぼ完全に保障されている。公立の義務教育では授業料が徴収されず、教科書も無償で提供される。

しかし、ジェンダー・ギャップ指数では、男女の就学率が等しければ「格差が小さい」と評価されるだけである。教育制度の質や費用負担の軽さそのものは、十分に評価されない。

健康・生存分野には、出生時健康寿命の女性/男性比が含まれている。しかし、女性の健康寿命が男性の1.06倍に達すると男女均衡とみなされ、それを上回っても追加点は与えられない。

したがって、日本女性の平均寿命が世界最高水準にあり、広く医療にアクセスできるという絶対的な到達水準が、そのまま総合順位を押し上げる仕組みではない。

順位だけで社会を判断しない

この指数が主として答えているのは、「女性が男性と同程度に経済活動や政治的意思決定に参加しているか」という問いである。

それに対して、「女性が一人でも安全に暮らせるか」「高齢になっても医療を受けられるか」「所得が少なくても生活を維持できるか」という問いは、十分に扱われていない。

治安、社会保障、医療費の負担可能性、介護制度、実際の寿命、生活の安心感なども、総合指数にはほとんど含まれていない。

日本の政治・経済分野に男女格差があることは事実であり、改善が必要である。しかし、2022年の116位(2025年は118位)という順位を、「日本は女性が暮らしにくい国であることを示す世界順位」と理解するのは正確ではない。

国際ランキングを見る際には、順位だけでなく、分母、対象年、データの出所、指標の選択、重み付け、そして、その指数に含まれていない要素まで確認する必要がある。

指標によって捉えられる改善と、人が実際に選択できる生活との違いについては、別稿「実装の中で失われる問い:SDGs評価とケイパビリティ・アプローチ」でも考察している。

主な出典

© 2026 Kazuko Yoshizawa. All rights reserved. 本記事の無断転載・複製・転用を禁じます。引用の際は出典を明記してください。

コメント