執筆: 吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.) – 栄養疫学者; グローバルヘルス・ニュートリション・スペシャリスト; Former Visiting Scientist, Harvard T.H. Chan School of Public Health; Former WHO Consultant
国連プロジェクトでは、成果を示すための「指標」が常に求められる。KPI、アウトカム、進捗率――。それらは、資金提供者や国際社会に説明するために不可欠な言語である。
しかし現場に立つと、私は何度も立ち止まることになった。本当に測るべきものは、すべて指標に落とし込めるのだろうか。
東ティモールでWHOコンサルタントとして関わった国家栄養計画は、約2億円という限られた予算と、短い期間の中で設計する必要があった。全国規模の栄養問題を「解決」するには、明らかに足りない条件だった。
そこで私は、すべてを一度に達成しようとする計画をあえて選ばなかった。代わりに考え続けたのは、何を測り、何を「測れない価値」として残すかという判断だった。
例えば、人材育成。研修を何人実施したか、報告書を何冊作ったかは測れる。しかし、それによって将来、その国が「自分たちで判断し、政策を修正できる力」を持ったかどうかは、短期的な指標では捉えきれない。
SDGsやODAの枠組みの中で仕事をすると、どうしても「数値で示せる成果」が前に出る。けれど私は、数値にできないものを切り捨てる設計だけはしたくなかった。
この記録は、成功事例の紹介でも、完成されたモデルの提示でもない。むしろ、評価不能性を引き受けながら、それでも計画を立てなければならなかった一人の専門家の思考の記録である。以下の記事では、この判断を実際にどのように制度設計に落とし込んだのかを記録している。
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