続編:国連プロジェクトTORの基本構成(実務チェック)
※本記事は、前編「国連プロジェクトにおけるTORとは?(基本と重要性)」を読んだ方向けの続編です。
前編では「TORがなぜ重要か」を整理しました。本稿では一歩進めて、TORを実務で使える形にするための基本構成を、短いチェック形式でまとめます。
TOR(Terms of Reference)は、立派な文章である必要はありません。重要なのは、関係者が同じ理解を持てるように「何を・誰が・いつまでに・どう判断するか」が読めることです。
1. TORを読む前に:まず確認する3点
- 目的:この業務(またはプロジェクト)は、何を変えるためにあるのか
- 成果物:最終的に「何ができていれば完了」なのか
- 評価の考え方:誰が、何を根拠に、どう判断するのか
この3点が最初に見えないTORは、後から「認識のズレ」や「評価の揉め」を起こしやすくなります。
2. 基本構成(実務チェック8項目)
国連・国際機関のTORは案件によって様式が違いますが、実務上は次の8項目が揃っていれば、運用しやすくなります。
- タイトル・識別情報(案件名、発行日、版、担当部局など)
- 背景と目的(なぜ今この業務が必要か、目的は何か)
- 業務範囲(スコープ)(やること/やらないことの境界)
- 役割と責任(誰が意思決定し、誰が実施し、誰が承認するか)
- 成果物(Deliverables)(提出物、形式、言語、分量、期限)
- スケジュール(主要マイルストーン、会議頻度、期限)
- 評価の考え方(指標・受入基準)(成功の判断軸、最低限の根拠)
- 報告・コミュニケーション(報告先、会議体、議事録、連絡ルール)
この8項目は、長文にせず「箇条書き+短文」で十分です。むしろ簡潔な方が、実施側も評価側も運用しやすくなります。
3. 迷いやすいのは「成果物」と「評価」
TORでトラブルになりやすいのは、次の2つです。
- 成果物が曖昧:何を出せば「完成」なのかが不明確
- 評価が曖昧:何を根拠に「良い/不十分」を判断するのかが不明確
実務では、「やること」は書いてあるのに、完成の定義と判断の基準が弱いTORが少なくありません。その結果、終了時に評価が後出しになり、揉めやすくなります。
4. 成果物(Deliverables)の書き方:最低限これだけ
成果物は、以下の4点を揃えるだけで実務品質が上がります。
- 何を:報告書/計画書/研修教材/データセットなど
- 形式:Word / PPT / PDF / Excel、ページ数の目安、言語
- 期限:提出日(初稿・修正・最終の区切りがあると良い)
- 受入:誰がレビューし、何をもって受入とするか
例:
「最終報告書(英語、10–15ページ程度、PDF)を提出。初稿→コメント反映→最終版の2段階。最終版は担当部署の書面承認をもって受入。」
5. 評価(指標・受入基準)の書き方:難しくしない
評価は高度な統計設計を必ずしも求めません。最低限、次の3点が書けていれば、後の混乱を減らせます。
- 何を見て評価するか(例:成果物の品質、合意形成、実装可能性)
- 根拠は何か(例:合意済み議事録、レビュー記録、現場での実装計画)
- できること/できないこと(データ取得の制約があるなら最初に明記)
指標(KPI)は「測れること」から選ぶのが基本です。現地でデータが取れないのに、理想の指標だけ書くと、評価で詰みます。
(参考:指標設計を詳しく扱った記事)
国際プロジェクトの成功指標:設計と評価の実務
6. スコープの線引き:いちばん効く「一文」
スコープは長々書かなくて良いです。実務で効くのは、次のような「やらないこと」宣言です。
本TORに含まれない事項:実地調査の実施、政策決定の最終承認、予算執行の決裁。
この一文があるだけで、「追加で頼まれる仕事(スコープクリープ)」が減ります。
7. 報告・コミュニケーション:議事録を“証拠”として残す
国連案件では、後から説明責任が求められます。口頭合意で進めるより、最低限の文書(議事録、メール、承認記録)を残す方が安全です。
- 定例会議:頻度(例:隔週)
- 議事録(MoM):誰が作成し、誰が承認するか
- 承認フロー:ドラフト→コメント→最終承認
「合意の証拠」が残ると、実施者も評価者もフェアになります。
8. 最後に:このTORは運用できるか?最終チェック
TORを受け取ったら、または作成したら、最後にこの2問だけ確認してください。
- Q1:このTORで、業務開始日から最終日まで「迷わず進める」ことができるか?
- Q2:このTORで、終了時に「何を根拠に評価するか」を説明できるか?
この2問にYESと言えるTORは、実務で強いです。文章の美しさより、運用のしやすさが成果を決めます。
まとめ
本稿では、国連プロジェクトのTORを実務で使える形にするための「基本構成(8項目)」を整理しました。続編として、必要があれば「悪いTORの典型パターン」「評価で揉めないための修正ポイント」も別記事で扱います。
執筆:吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.)
栄養疫学者/グローバル・ヘルス・ニュートリションスペシャリスト
(元ハーバード大学客員サイエンティスト;元 国連・WHOコンサルタント)
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