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世界銀行から届いた一通の案内:「キャパシティ・ビルディング」と「評価」をめぐる同じ問い

キャパシティ・ビルディングと評価において、KPIでは測れない価値をどう扱うかという国際開発の課題を示すビジュアル
キャパシティ・ビルディングと評価は、ともに「測れない価値」をどう扱うかという同じ問いを抱えている。

著者: 吉澤和子(Kazuko Yoshizawa, Sc.D.)
栄養疫学者(Nutrition Epidemiologist)/グローバルヘルス・ニュートリション スペシャリスト
元WHOコンサルタント(公衆栄養政策および人材育成計画を担当)

世界銀行から届いた一通の案内

先日、世界銀行からオンライン・ライブ配信の案内が届いた。タイトルは “Building Human Capital & Measuring Progress”。 人的資本をどう築き、その進捗をどう測るのかというテーマである。

このタイトルを見た瞬間、私は強い既視感を覚えた。 それは、国連や各国政府と仕事をする中で、繰り返し向き合ってきた問いそのものだったからだ。

「測ること」が先行しすぎていないか

人的資本、人材育成、制度能力。 これらは開発において不可欠だが、短期的なKPIでは捉えにくい。 それでも、説明責任の名の下に、数値化が求められる。

世界銀行自身が「Measuring Progress」を問い直していることは、 測ることそのものが難しくなっているという認識の表れではないだろうか。

東ティモールでの判断と同じ問い

私はWHOコンサルタントとして、東ティモール保健省の国家栄養計画策定に関わった。 その際、5歳未満児の急性栄養不良(wasting)や慢性栄養不良(stunting)は、 国際的に共有可能で介入効果を検証しやすい指標として、最終KPIに設定した。

一方で、保健省や統計局が「自らデータを集め、理解し、政策に使えるか」という 制度能力については、あえて最終KPIには置かなかった。 重要ではあるが、短期評価に無理に押し込むことで本質を歪めると判断したからだ。

評価できるものは評価する。 しかし、重要であっても短期に測れない価値を無理にKPI化しない。 それもまた、評価設計の一部である。

同じ場所に来ている世界銀行

今回の案内を見て、 この問いがいま、世界銀行という制度の中心でも共有され始めていると感じた。

KPIでは測りきれない価値を、どう扱うのか。 それは、評価の次のフェーズに入ったことを示すサインなのだと思う。

私はKPIを否定していない。 ただ、何を測るかは、何を価値とするかの結果であるという事実を、 評価の現場で忘れてはならないと考えている。

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