Since May 2020

国連プロジェクト提案書成功の鍵:指標選定

Laptop keyboard sympolizeding project management and proposal analysis.
Clear analysis drives successful UN project proposal. Image by Markus Winkler from Pixabay.

はじめに

これまでにTOR(Terms of Reference)に関する記事をご紹介してきましたが、筆者が実際にプロジェクト計画を立てる中で最も慎重になるのは「どの指標を選ぶか」です。

適切な指標の設定は、現状分析から介入前後の比較、成果の提示に至るまで、すべてのステップでプロジェクトの説得力と透明性を高めるカギを握っています。

本記事では、筆者自身の経験も交えながら、国際機関のプロジェクト提案における「指標の選び方」について、実践的なチェックリストとともに解説します。

PDCAサイクルと指標選定の位置づけ

国連や国際機関のプロジェクト提案書を作成する際、成功に大きく影響を与える要素の一つとして、指標(インディケーター)の選定が挙げられます。指標は、Plan-Do-Check-Act(PDCA)サイクルの中で評価と改善の基盤となり、プロジェクト全体の進行を支える重要な要素とも言える存在です。指標の導入方法には、PDCAサイクルを意識しない専門家もいますが、プロジェクトの内容や目的によってアプローチが異なることもあります。

PDCA(Plan-Do-Check-Act)の各段階において、指標(インジケーター)を意識することは非常に重要です。 むしろ、指標なしでは「計画の質を測れず」「実行の効果がわからず」「評価も改善も感覚頼み」になってしまいます。

それぞれの段階での指標の役割を整理すると、以下のようになります:

🔹 PLAN(計画)

  • 目的や目標を定量化するために指標を設定
  • 現状(ベースライン)を把握するためのデータ収集
  • SMARTな目標(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)を立てるために不可欠

例:
栄養不良改善 →「5歳未満児の発育不良率を〇%減らす」

🔹 DO(実行)

  • 活動が期待されるアウトプットやアウトカムに沿っているかを測定
  • 進捗を確認するためのプロセス指標を活用

例:
栄養教育の実施回数、母親の参加者数、栄養補助食品の配布件数

🔹 CHECK(評価)

  • 成果や影響を、事前に設定した評価指標で確認
  • ベースラインとの比較、目標とのギャップを分析

例:
発育不良の割合がベースラインと比べて5%減少したか?

🔹 ACT(改善)

  • 評価結果をもとに、修正・強化の方針を検討
  • 次のPDCAに向け、指標の妥当性も見直す

例:
補助食品の配布量は十分だが利用方法が適切でない → 家庭訪問によるフォローアップの強化を検討

つまり、指標はPDCA全体を貫く“軸”のような存在です。 プロジェクトマネジメントや提案書の精度を高めるうえでも、「いつ・何を・どう測るか?」を初期から設計に組み込んでおくことが、成功の鍵になります。

チェックリスト:指標選定の4つの視点

以下のテンプレートを活用し、あなたのプロジェクトに最適な指標を検討してください。

✅ チェックリスト:栄養指標選定の4つの視点

以下のテンプレートを活用し、あなたの栄養プロジェクトに最適な指標を検討してください。

チェック項目 説明 確認
① 科学的根拠があるか? 指標が信頼できるエビデンス(学術研究、国際機関の基準等)に基づいているか 例:5歳未満児の発育不良率(WHO成長基準)、貧血率(Hb測定)
② SDGsと整合しているか? 栄養改善がSDG目標(特に2.2「すべての形態の栄養不良を終わらせる」など)に貢献しているか 例:SDG 2.2「子どもの低体重・発育阻害の削減」
③ 比較可能か? ベースラインとエンドラインで、同一の方法で測定・比較ができるか 例:介入前後での発育不良率の変化(%)、母親の知識スコアの推移
④ データ収集が現実的か? 現地での調査実施体制、費用、技術的・倫理的な制約に照らして実行可能か 例:既存の栄養調査との連携、簡易な質問票や測定ツールの活用(身長・体重測定など)

💡使い方のポイント
自プロジェクトの内容に即して、各項目に✓を入れることで、指標の妥当性と実現可能性を確認できます。
特に「④ データ収集の現実性」は過小評価されがちですが、現地で継続的に測れるかが成功の鍵です。
必要に応じて、「質的指標(例:母親の理解度、受け入れやすさ)」も追加してバランスを取ると◎です。表の貧血率(Hb測定)のデータについては緊急支援の場合など入手困難であるが、既存のものがあれば利用する。

1. エビデンスに基づく指標の重要性

プロジェクトの目的や成果に直結する、科学的根拠に基づいた信頼性の高い指標を選ぶことは、提案書全体の説得力を高めるうえで不可欠です。

例:
栄養改善プロジェクト ⇒ 「栄養不良率(malnutrition rate)」
公衆衛生プロジェクト ⇒ 「ワクチン接種率」など

現状分析 → 介入 → 成果評価という流れの中で、数値で表せる指標は評価者にとって明確で、透明性を高めます。

2. SDGsに対応した指標選定

国連関連プロジェクトでは、可能であればSDGs(持続可能な開発目標)に対応した指標を選ぶことで、国際的な一貫性と評価の受け入れやすさが向上します。

例:
SDG目標2「飢餓をゼロに」
・5歳未満児の栄養不良率
・低体重児の出生率

このような指標を選ぶことで、将来的な報告書の国際的活用や、パートナーシップ形成にもつながります。

3. 成果を的確に示す指標の条件

成果を明確に示すには、「目的に直結し、介入前後の比較が可能」な指標が望ましいです。

例:
・栄養不良の分類(軽度・中程度・重度)
・治療完了者の割合
「5歳未満児の中程度栄養不良率が30% → 15%に改善」

東ティモールでの事例:
プロジェクトプロポーザルでは、5歳未満児の栄養不良率を介入前後を比較するために一つの指標として導入しました。

4. コストパフォーマンスを意識した指標選定

指標は、現場でのデータ取得が現実的かつ費用効率的であることも重要です。

例:
・WHO、UNICEF、国勢調査などの既存統計の活用
・任国政府に対して援助として実施した国連のサーベイ(世界銀行など)

注目ポイント:
未公表の現地データも活用できる可能性があるため、現地の専門家や国際機関本部との連携が鍵となります。

まとめ:成功するプロジェクト提案のために

プロジェクトの信頼性を左右する「指標選定」は、評価・報告・提案・拡張のすべての段階で中心的な役割を果たします。

成功のための4つの視点を再確認:

  • ✅ 科学的根拠に基づいた信頼性のある指標
  • ✅ SDGsとの整合性
  • ✅ 比較可能で定量的な成果測定が可能な指標
  • ✅ コスト効率とデータ取得の現実性